地獄の時間
地獄に行く銃の音がした。 あるいは溜息をつき、あるいは涙ぐみながら、あるいは嬉しそうに走り出した。その一団に私も加わる。地獄を味わうために。 望んでいた雨は降らなかった。一滴も。 どうか、この行事に私が参加している最中に雨が降らないだろうか。お願いします、神様。雨を降らせて下さりませ。お願いします、お願いします。 私を私が大嫌いな女子生徒が追い越す。あの女子、私は嫌いだ。性格が悪く、わがまま。だが、見かけはいいので、男子からはモテる。男子はそういう女子の暗い面を見抜けない。 息が上がってきた。そのまま、五週目に入る。 一緒に走ろうと約束していたのだろう、女子が三人で固まっている。その女子たちはキャラクターの話をしていた。 「折木でしょ。あの、イケメンがいいね。頭も良いし」 「私は伊原かなー。気が強いけど、弱い面もあってその強弱が好き」 「私は千反田。好奇心旺盛なところが好き」 ははあ。あれね。小説か。アニメにも映画にもなっなー。あれ。里志は?私、里志が好きなんだけど。たまに見せる闇が人間臭いし、一緒にいると楽しそう。あの作者の作品で一番好きなのは小佐内さんだけど。あの残忍性が良い。 なんて考えているうちに、六周目に突入。 足が棒になった。 息が肺に溜まっている感じがする。 息をするのが苦しい。 一歩を踏み出そうとした時、ふっと意識が自分から離れる気がした。 意識が戻った。 私はがばっと上半身を起こし、辺りを見回した。 あとで気づいたのか、養護教諭が振り返り、優しく微笑んだ。 「熱中症ね。水を飲まずに持久走で走るからよ」